「大鹿村騒動記」

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〔2011年/日本〕


長野県、大鹿村。
この村で300年も続く伝統芸能、“大鹿村歌舞伎”。
その出演者たちは、5日後の公演に向けて、
練習に余念がなかった。
村で食堂を営む原田芳雄は、
メンバーの中でも、特に力が入っており、
皆のリーダー格だ。


そんな折、村に着いたバスから、
何やら曰くありげな中年男女が降り立った。
サングラスを掛け、人目を避けてはいたが、
バスの運転手、佐藤浩市は、
彼らが、村を捨てて出ていった、
大楠道代と岸部一徳である事に気付く。


大楠は原田の妻だったが、
18年前、原田の親友、岸部と恋愛関係に陥ってしまい、
原田を裏切り、駆け落ちしたのだ。


原田に会った岸部は、
大楠を原田に返すと言う。
大楠には、認知症のような症状があらわれており、
物忘れが激しく、また、物事を認識する能力が欠如してきていて、
岸部の手には負えなくなったのだ。


そのまま村を去るという岸部に原田は、
歌舞伎を見ていけと言う。
ところが、舞台に立つはずの佐藤が、
バスの事故で入院してしまう。
そんな状況で歌舞伎は成功するのか。
そして、原田、大楠、岸部の関係は・・・。





これはコメディであるが、
全然別の部分で考えさせられた。


原田芳雄を裏切り、岸部一徳と出奔した大楠道代が、
認知症になった時、
頭に残ったのは、原田への激しい罪悪感。


彼女は一瞬、正気に戻った時、
泣き崩れるくらいの後悔の念に襲われ、
また、痴呆の症状が現れている時は、
村を出て行った日、最後に会った松たか子に平手打ちを食らわしたりする。
「あなたを見ると、何かイヤな事を思い出す」と。


醤油も箸も覚えておらず、
商店で金を払うという概念さえ失っているのに、
店から無断で持ってきてしまうのは、
原田の大好物だというイカの塩辛だ。


どう考えても、自業自得なんだけど、
彼女は苦しみ抜いているのだろうなぁと想像できる。
人はよく、「人生はやり直せる」と言うけれど、
やっぱり、人を裏切ってまでやり直すのは、
相当なリスクを覚悟しなければならないのだろう。


コメディなんだから、もっと楽しめばいいのに、自分(笑)。
もちろん、笑える場面は沢山あった。
大鹿村も大鹿歌舞伎も、架空のものだと思っていたら、
エンドロールで、本当に存在する事を知った。


良いな、と思ったのは、
男たちが出征中は、女が歌舞伎を守ってきたというエピソード。
男だ女だと諦めず、
臨機応変に急場を乗り越えた知恵は素晴らしいと思うな。


評価 ★★★☆☆

この記事へのコメント

  • 坊や

    なんだかスゴイ映画ですねー。 笑えて、考えさせられて、そんなっ
    と思いながらも納得”しそうな・・感じ? 是非観たいです。
    認知症になっても心の奥底に刻まれた愛情に深く係わる事(喜、怒共に)は想い出します。他人には些細な事柄にしか思えない様な事だが
    本人にはそれがとても重要で大切なものなのでしょう。(体験上)
    2011年08月09日 17:17
  • yonta*

    この映画、気になるなあと思っていた矢先、
    原田芳雄が亡くなってしましました。すごくファンだったという訳では
    ないのですが・・もっと居てほしかったな、という気持ちです。

    結局まだ観てないのですが(またかい)、青山さんが、考えさせられたと
    おっしゃっているのは、わかる気がしました。
    とても許されないことをしてしまったとしても、
    その本人に自覚があり、苦しみぬいているとわかったら、
    傷つけられた側はあまり責められない、かなあ。

    でも、自分が傷つけた側だったら、その後どうすれば・・・
    なんて、的外れだったらごめんなさい。
    2011年08月10日 00:43
  • 青山実花

    坊やさん

    >認知症になっても心の奥底に刻まれた愛情に深く係わる事
    >(喜、怒共に)は想い出します。

    やはりそういう事なのですね。
    それが人間を動かす力の元にもなっていると思うので、
    脳がどんな状態になっても、変わらない事なのかもしれません。

    ぜひご覧になって下さいね。
    2011年08月10日 14:29
  • 青山実花

    yonta*さん

    私も原田さんには、特に強い感情、「大好き」とか「大嫌い」とかを
    抱いた事がないので、
    知ったような事を書くのは逆に失礼に当たると思い、
    本文では触れませんでした。

    的外れなんて事はないですよ。
    コメディという事もありますが、認知症になってしまった大楠さんを
    責める人は誰もいませんでした。
    だって彼女は、岸部一徳さんの事も、原田さんの名前で呼ぶ始末で。
    そんな人を責められませんよね(笑)。

    以前、私も人生で最大級に落ち込んでしまった時、
    心に最後に残ったのは罪悪感でした。
    日頃の、我儘で傲慢で手前勝手な自分ばかりが思い出されて、
    周囲の人にどれだけ迷惑を掛けてきたんだろうと、
    そんな事ばかり考えて、本当に苦しかったんです。
    だから、大楠さんの気持ちが1ミリくらい分かった気がして。
    2011年08月10日 14:40

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